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京都地方裁判所 昭和42年(ワ)414号 判決 1968年2月27日

原告

谷口夕香里

法定代理人親権者

谷口忠彦

谷口洋子

訴訟代理人

小林勤武

大錦義昭

服部素明

被告

藤田重子

主文

被告は、原告に対し、金二、二三八、七九〇円および昭和四一年三月二〇日いこう完済までの年五分の金銭を支払わなければならない。

被告に訴訟費用を負担させる。

原告は、被告に対し仮執行することができる。

理由

申立

(一)  原告は、主文どおりの判決を求めた。

(二)  被告は、(一)に対し、「原告の請求を棄却する。原告に訴訟費用を負担させる。」との判決を求めた。

主張

(三)  原告は、下記のとおり、要約し、

(1)  原告は、昭和四一年三月一九日、満九才のおりのこと、京都市南通西九条高畠町三番地先を南北に通ずる幅員二一、七メートルの国道一号線と東西に通ずる幅員一八、〇メートルの十条通が交差する十字路で、そこの北詰の横断路を信号灯の青色にかわつてから西東に歩行していたところ、被告と金鳳鎬の夫婦で営む建設業の被用者につかつていた兪日胎が小型三輪貨物自動車を運転し十字路の中央線よりを北進してくるなり、同自動車の左後部を原告に衝突させて転倒させ、右頭部陥没骨骨折(頭部外傷三型)の傷害を負わされたため、即日から二五日間を同仁会九条病院に入院し一八ケ月間あまりをそこに通院して治療に専念したけれども、長期にわたり後遺症のめまい、しびれ(左下肢)貧血脳波異常がつづき、めまい以下二つが漸次に弱まつてからも脳波異常だけはいまなおしつように残存している。

(四)  原告は、かくて、本件の事故のため、物質的又は精神的に、金二、五三八、七九〇円の損害を、内訳すれば、

(い)  金一、五三八、七九〇円、ただし、原告が事故時に前記のとおり年令の女子であつたこととて、少くとも、満二〇才から四三年間は労働に従うことができるものと見込むべきところ、昭和三九年度を最も近い基準とするような成年の女子の賃金が平均して一月当り金二三、〇〇〇円を下らないことはあきらかであるゆえ、問題の後遺症の程度を労働者災害補償保険法による障害補償のさいの第七級とみなし、それに対応する賃金の低減を四割に相当する一月当り金九、二〇〇円までとし、前記の四三年間の失うこととなるはずの総金額から一年ごとに五分の利息金を差引いた現価額として算出できるもの、

(ろ)  金八〇〇、〇〇〇円、ただし原告が前記のとおり長期の治療を要する重度の傷害を負わされたこと、しかも前記のような後遺症のため当面の学業をつづけてゆくのに支障がみられるばかりか、成人して労働に服し又は結婚をするについても不安がつきまとつていることから、精神上少しとしない苦痛をうけ又はうけなければならないと予測されるのを慰藉する金銭として支払われるのを相当とするもの、

(は)  金二〇〇、〇〇〇円、ただし、原告が上記のような二項目の賠償を求める訴訟を自らおこなうことはむずかしく、弁護士に委任をしたため、手数料としてよぎなく支弁したもの、を合算した数額の損害をこうむつたが、金鳳鎬から内金三〇〇、〇〇〇円の支払をうけたので、差引き金二、二三八、七九〇円だけとなつている。

(五)  原告が、しかるに、上述のような災厄にあつたのは、被告と金鳳鎬が前記のとおり建材業を営むため被用者の兪日胎に問題の自動車を運行させていたおりからのことゆえ、被告においては保有者(自動車損害賠償保障法第三条)として事故により生じた損害を賠償しなければならなく、そうでないとするも、兪日胎のほうで上記のような被用者として問題の自動車を運転しながら信号灯の指示に従わなかつたり針路の安全であるかどうかを確認しないまま走行したりしたという過失をおかしたけつかにほかならないといえるから、被告においては使用者(民法第七一五条)として同様の損害を賠償しなければならない義務があるものである。

(六)  原告は、そこで、被告を相手とり前前項の金銭および事故日の次日いこう完済まで遅延したことによる年五分の損害金の支払を求めるわけである。

被告は、下記のとおり、要約し、

(七)  原告の(三)で主張する事実のうち、原告がさような日時と場所で主張のとおり兪日胎の運転する小型三輪貨物自動車に衝突せられ傷害をうけたこと、被告が当時金鳳鎬と夫婦であつたこと(だが、まもなく離婚している。)は認めるけれども、これら二人で主張のように建材業を営み兪日胎を被用者としていたことは認めるわけにはゆかなく、(同上の建材業は金鳳鎬が一人で営み、兪日胎は同人だけの被用者となつていたものである。)残余の部分は不知として争う。

(八)  原告の(四)で主張する事実のうち、原告が主張のとおり金鳳鎬から金三〇〇、〇〇〇円の支払をうけたことは争わないけれども、残余の部分はすべて争う。

(九)  原告の(五)で主張する事実のうち、被告が主張のとおり問題の自動車の保有者又は兪日胎の使用者であることは認めるわけにゆかなく、(同上の保有者又は使用者は前出の建材業を営む金鳳鎬だけである。)残余の部分は不知として争う。

(十)  原告の(六)で請求する金銭は失当なるものである。

と主張した。

(十一)  証拠<省略>

(十二)  被告は、証拠の申出をしなかつた。

判定

(十三)  原告の(三)で主張する事実はどうか。

被告の認めるものを除き、双方で争う建材業とその被用者に関する部分は、<証拠>を総合し、残余の部分は<証拠>を総合するとき、いずれも、原告の主張するとおりをうべなうに十分である。被告は、(七)のように抗争するけれども、証拠がないから、いわれがないものとすべきである。

(十四)  原告の(四)で主張する事実はどうか。

被告が認める以外の双方で争う損害の存否および数額に関する部分は、<証拠>を総合するとき、結局、原告の主張するとおりに認むべきこと、すなわち、

(い)  金一、五三八、七九〇円、ただし、原告が事故時に主張のような年令の女子であつたから、少くとも主張のとおりの年数を労働に従えるものと見込むことは、本人が昭和三九年度簡易生命表の示す平均余命によるも、なお六五・七四年を生残するものとみてよいのみか、従来は健康と知能が上級にちかく成人して労働する意欲と能力もそなえていたのに徴し妥当とすべきところ、資料上最も事故時に近い昭和三九年度の女子の賃金を一月当り二〇才の勤続年(以下で対応する年数をくわえる。)金一四、三〇〇円、二一才で金一五、〇〇〇円、二二才で金一五、八〇〇円、二三才で金一六、七〇〇円、二五才ないし二九才で金一七、四〇〇円、三〇才ないし三四才で金二四、八〇〇円、三五才ないし三九才で金二八、七〇〇円、四〇才ないし四九才で金二三、六〇〇円、五〇才ないし五九才で金三五、四〇〇円、六〇才以上で二〇、四〇〇円(労働大臣官房労働統計調査部昭和三九年賃金構造基本統計調査報告にしたがう。)としそれを平均すれば主張のとおり一月当り金二三、〇〇〇円をこえる数額が算出されるとはいえ、正確をかくうらみがあるので、前記の年数を通じ問題の後遺症のため主張のような割合で賃金が減少するものとみて、一年ごとに失うこととなるはずの積算額をうる方式にしたがいながら主張のような中間の利息金を差引いた現価額の円金が掲記のとおりとなるもの、

(ろ)  金八〇〇、〇〇〇円、ただし原告が主張のとおり精神上の苦痛をうけ又はうけなければならないと予見されるのを慰藉する金銭として支払われるのを相当とするもの、

(は)  金二〇〇、〇〇〇円、ただし、原告が主張のとおり訴訟を起すことを弁護士に委任したため手数料として支弁したもの、を合算した数額の損害が生じたものと認めるべきであるのに対し、主張のような金銭のすでに授受せられたことは争われないから、差引き金二、二三八、七九〇円が残存していることになるは明白である。

(十五)  原告の(五)で主張する事実はどうか。

被告が認める以外に双方の争う建材業とそれの被用者に関するものは前認のとおりであるのにくわえ、<証拠>によれば、本件の事故は被告らがさような建材業のため問題の自動車を運行の用に供していたおりから、ひきおこされたものであることが確められるにかかわらず、被告においては自己および兪日胎に過失がなくかえつて原告に故意又は過失があつたことのほか自動車に構造上の欠陥あるいは機能上の障害がなかつたことを証明しないから、事故のため生じた損害を賠償しなければならない義務を負うものと断ずべきである。

被告は、(九)のとおり抗争するけれども、これまた証拠がないゆえ、とりあげることができないのである。

(十六)  原告の(六)で請求する金銭は、どうか。

そうであれば、被告から金二、二三八、七九〇円および昭和四一年三月二〇日いこう完済までの年五分の損害金を支払わなければならない義務があることもちろんである。

原告の被告に対する請求は、以上により、全部を正当として認容すべきものとし、敗訴のがわに訴訟費用を負担させたうえ、勝訴のがわに仮執行することを許容したしだいである。(松本正一)

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